[タチバナ]日本の植物文様~家紋としてよく知られるタチバナ|ミカン科ミカン属|エバーグリーン

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メジャーでないのになぜ文様に?

レモンキンカン、ミカンなど知られている柑橘が多数あります。しかし、現代の文様は別として古典的な文様のなかには、タチバナの文様や家紋しか現存していません。今回はそのタチバナ(橘文・橘紋)についてご紹介します。

タチバナはミカン科の常緑小高木ミカン科の常緑小高木

タチバナはミカン科の常緑小高木ミカン科の常緑小高木

 

タチバナは6月頃に小さい白い花を咲かせ冬に実を付けます。

 

「文」なのか「紋」なのか

タチバナに限らずですが、「文様」と「紋様」という文字が使われ、さらに「模様」もありどれが本当なの? と思われる方も少なからずいると思います。ちなみに「文様」も「紋様」も辞書では同じ意味になり、大きな意味で「模様」のひとつです。

しかし、一般的な使われ方では自然にできあがった平面的な図柄に関して使われることが多く、染織などの世界では家紋、役者紋、寺紋などでは「紋様」としています。一方、「文様」は美術品や工芸品といった人工物にあしらわれた図柄がなどで使われることが多いとされていますが、筆者の場合は「文様」の「文」をあえて“ふみ”と考え、多くの文様のなかには古(いにしえ)の時代から現代へのメッセージが秘められているものとして文様を捉えています。それでは、まず、橘文から紐解いていこうと思います。

 

古くから描かれている橘文

橘文とはタチバナを図案化したものです。タチバナは、日本では古くから神聖な樹木のひとつとされ、古事記のなかでは「非時香実(ときじくのかぐのみ)」「常世の国(楽園)」に生えている不老不死の果物とされています。

万葉集のなかにはタチバナが登場する歌が約70首もあり、そのひとつに大伴家持(おおとものやかもち)が詠んだ『吾屋前之 花橘者 落過而 珠尓可貫 實尓成二家利【読み】我(わ)が宿(やど)の、花橘(はなたちばな)は、散り過ぎて、玉に貫(ぬ)くべく、実になりにけり』という歌があります。意味は、庭のタチバナの花は、散って、玉(たま※ここでは端午の節句に古の時代に作られ、厄除を祈る芳香がする薬玉のこと)にして通せるくらいの実になりました、だそうです。

タチバナの語源のひとつに、タヂマモリが転じたとする説や田道間守(だぢまもり)の名そのものが、「田の道で(香りが)目立つ存在」の意を持つとも考えられています。これは、タチバナの実は不老不死になるとされていたことで、天皇の命で田道間守は、海の彼方の誰も行くことのできない国、常世の国にタチバナの実を探しに行き持ち帰りますが、すでに天皇は亡くなり、田道間守は陵墓の前で泣き叫んだまま息絶えてしまうというエピソードに通じているのだとか。ほかにも、タチバナは千葉県茂原市にある橘樹神社の始まりとされる『弟橘媛(おとたちばなひめ)伝説』などにも関係するとされる樹木です。

また、今でも京都御所の紫宸殿(ししんでん・ししいでん)の正面の階段の右側(階段から見て)にはタチバナの木。左側にはサクラが植えられ、左近桜、右近橘と相対して有名なのは、タチバナが不老長寿など縁起が良い樹木と考えられているからです。そのため、古典的な図案の染織のなかにタチバナの文様が描かれるのは、不老長寿や厄除けの意味を込められていたとされています。

橘文のキモノ

橘文のキモノ

 

ほかにも牡丹文や椿文など、いずれもおめでたさを象徴する植物文が描かれています。

扇面に橘に松文も(羽織)

扇面に橘に松文も(羽織)

 

扇面とは扇の紙の部分。そこに描かれているのは常盤木(トキワギ)ともいわれるマツとタチバナ。いずれも、延命長寿に通じるとされます。

 

家紋でも知られる橘紋

橘紋は日本の家紋のなかでも、柏紋、片喰(かたばみ)紋、桐紋、鷹の羽紋、蔦紋、藤紋、茗荷紋、木瓜紋、沢瀉(おもだか)紋に並ぶ十大家紋(じゅうだいかもん)のひとつとして知られています。

ちなみにこの橘紋は、徳川家康に仕えた戦国時代の武将のひとりで「徳川四天王」のひとりとして知られる井伊直政が使用していたことでも知られています。タチバナのタチに太刀を当てはめ「太刀花」と書くこともできることから、武家に愛されたとされています。

 

キモノの背に見られる橘紋

キモノの背に見られる橘紋

家紋には色々なパターンの橘紋がある 家紋には色々なパターンの橘紋がある

家紋には色々なパターンの橘紋がある

家紋には色々なパターンの橘紋がある

参考サイト
http://hakko-daiodo.com/

 

 

(藤依里子 園芸文化協会会員・日本図案家協会準会員)


橘文のキモノ