全国各地のご神木のなかでも、とにかく多いのがイチョウ。ご神木ライターでもある筆者泣かせのこのイチョウですが、文様で、となるとなかなか目にしない木でもあります。今回はそんなイチョウの文様とご利益などを紹介したいと思います。
銀杏文には開運招福、富貴繁栄、母乳祈願が託される。
イチョウの木や葉、実を図案化したものを「銀杏文」といいます。樹齢が長く、耐火性があることから生命力の象徴。葉の形が末広がりであることから、開運招福や富貴繁栄。老木になると乳房に似た気根が伸びるため、子育てや授乳祈願。また、雌雄異株であることから良縁祈願や夫婦円満。ご神木として数多く知られることから神仏加護。さらにイチョウは「異朝」の語呂合わせから、他国の賓客を迎え入れる喜びに通じるとされるなど、ありとあらゆる縁起が担がれるのが特徴です。家紋としても描かれ、中輪に一つ銀杏紋、三つ銀杏紋、剣と組み合わせた二つ剣銀杏紋などが知られています。
ご神木にイチョウが多いのはなぜ?
イチョウは二億年以上前から地球上に存在し「生きた化石」ともいわれるほどで、長寿の象徴とされる樹木です。そして、ほかの木に比べて燃えにくいため防火性に優れ、腐敗しにくいことから建材となったり、実のギンナンも栄養豊富で薬効があり、修行食として用いられたりもしました。これらの要素が重なったことが、ご神木として崇められる理由となったと考えられています。ちなみに、イチョウは家や屋敷に植えると縁起が悪いといわれていますが、神聖なる木なのだからむやみに家に植えるべきではないという考え方と、大木になって根が張り、家屋敷を傷める可能性があるためだと考えられています。
イチョウはいろいろな漢字が使われています。
イチョウは漢字では銀杏、公孫樹、鴨脚樹が使われ、別称には乳木(樹・ちちのき)、一葉(いちえん)、銀杏木(ぎんなんぎ)とも呼ばれています。花言葉では「荘厳」「長寿」「鎮魂」が知られ、実であるギンナンは肺を温めて咳を止め毒を消す作用があるほか、頻尿、夜尿症などに対して民間療法で用いられてきました。また、最近では葉からとれるエキスに抗酸化作用があるとされています。
植物と文様と……
植物と文様、文様と植物は切っても切れない縁があります。とくに、日本の文様では植物文が数多く知られていますので身近な文様を探してみてくださいね。筆者は『日本の伝統文様 春夏秋冬 花尽くし(仮)』/芸術新聞社を準備中です。
(藤依里子(植物文様研究家))