今回は番外編として、ご神木ではなく神紋(しんもん)としてダイコンが使われている湯島聖天・心城院をご紹介します。
なぜ、ダイコンが……
通称、聖天様と呼ばれているこの神様は、日本では象頭人身の男神と女神の双身像が抱き合ったカタチのものが一般的。そういうこともあり、一般には公開されていないケースが多いとされています。ちなみに、聖天様は正式には大聖歓喜天と呼ばれ、そのルーツは『夢を叶えるゾウ(水野敬也・著)』で一躍有名になった、あのインドのガネーシャさまだとされています。そして、この神様を奉る場所で目にするのがダイコンの神紋です。
なぜ神紋にダイコンが使われるようになったのかには諸説ありますが、神紋をよく見ると二股大根になっていることに気がつかれた方もいると思いますが、そうなんです! お店ではあまり見かけませんがふたつに分かれているダイコンが使われています。
これは、ダイコンが男性の男根を象徴するとされていることに由来し、夫婦和合、家庭円満、縁結びに効果的なのだそうです。また、ダイコンはその白色が、食べることで体内の毒や煩悩を消す作用があり、無病息災に通じるとされているからです。ちなみに、神紋とは家紋とは区別されている紋の種類のひとつで、神社や寺でも各々に用いる固有の紋を指し神紋、寺紋(じもん)と呼ばれます。ゆかりのある公家や武家の家紋が使われたり、由緒縁起にまつわるものが意匠化されたりしています。
湯島聖天・心城院ってどんな場所?
その昔は湯島天神の別当寺として、天台宗喜見院の「宝珠弁財天堂」と呼ばれていましたが、元禄7(1694)年に菅原道真との縁がある歓喜天(聖天様)を弁財天堂に奉安したことが始まりだとされています。江戸時代には幕府公認の富くじが発行され、天王寺(谷中感応寺)、目黒不動 (目黒瀧泉寺)と並び、湯島天神(喜見院)も江戸の三富として知られていました。
しかし、明治維新で発令された神仏分離令の影響から湯島天神との本末関係を断つことになり、天台宗に属し寺名を「心城院」としたのだとか。その後、泉鏡花の『湯島詣』、平岩弓枝の『御宿かわせみ』などにも登場したことで多くの人に知られています。ほかに、境内にはその水数滴で髪を撫でれば、水が垢を落とすが如く髪も心も清浄になり、降りかかる災難除けになるとされる江戸名水「柳の井」や、亀たちの姿を見ることができる「心字池」があります。
結び
今回はご神木ではなく、湯島聖天ゆかりの神紋である二股大根紋を取り上げましたが、実は、ほかにも日本各地の寺社には植物をモチーフにした神紋が数多くありますので、また機会がありましたらご紹介させていただききますネ。
- 『湯島聖天 心城院』:東京都文京区湯島3-32-4
(写真・取材/和の文様研究家・グリーンアドバイザー ふじえりこ)