[キリ]日本の植物文様~よく見かける桐文|キリ科キリ属|エバーグリーン

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日本の文様の中でもよく目にするキリ

キリは、現在シソ目キリ科キリ属の植物ですが、以前はゴマノハグサ科に分類されていました。ちなみに漢字では「桐」と書き、その由来は花が筒状になっていることや筒のように真っ直ぐ成長することからとされています。また、その名は諸説ありますが、切ってもすぐに芽を出すことから、「きる(切る・伐る)」の名詞形「キリ」が使われるといった説や、木目が美しいことから、木目を意味する「木理」に由来する説もあるのだとか。桐文はキリを図案化したものの総称で、家紋として描かれたものは一般的に「桐紋」と書きます。

キリの花

キリの花

 

なぜキリは文様に取り入れられたのか

キリはキモノなどの文様でもよく目にしますが、一般的には家紋としてのほうがよく知られているのでないでしょうか。

これは中国の古いお話に、伝説の鳥、鳳凰(ほうおう)は桐林でタケの実を食べ、霊水を飲んで暮らし、聖天子の治政の兆として現れるとされていたことから、キリは鳳凰と結びつけられ、桐紋はその昔は皇室の専用紋として用いられていたことにあるとされています。

しかし、桐紋は徳川氏のあのミツバアオイをモチーフにした葵の御紋のように、厳しい使用制限が敷かれることなかったため、一般庶民層の多くが家紋に取りいれたことにより広く個人に用いられたとされています。そのためその種類も多く、桐紋は藤紋、鷹の羽紋、木瓜紋、片喰紋と並ぶ五大家紋(五大紋)のひとつになっています。

藤桐紋

藤桐紋

いろいろな桐紋

いろいろな桐紋

 

桐紋は染織の文様にも多く使われている

家紋として数多く描かれている植物は、植物文様としても和小物や染織の中でも数多く目にすることができます。一般的には桐文と呼びますが、キリの花を描いたものは桐花(とうか)文、花の数で区別し五三桐文、五七桐文と描かれ方によって家紋同様に区別して呼ぶことも少なくありません。

金駒刺繍が施された振袖の桐文

金駒刺繍が施された振袖の桐文

 

ちなみに駒刺繍とは、刺繍針に通せない太い金糸・銀糸を駒(こま、糸巻き)に巻きつけ、下絵に沿って文様を描く技法のことで、銀の色のものは銀駒刺繍と呼ばれています。

桐に鳳凰文

桐に鳳凰文

 

こちらは羽織裏古布。キリは先述のお話にあった伝説の鳥のひとつ鳳凰と共に描かれることも多いです。

桐に鳳凰文

桐に鳳凰文

 

こちらはキモノ。

アンティーク羽織に描かれている桐文

アンティーク羽織に描かれている桐文

 

キリに託された願いや縁起とは

キリはその昔から縁起の良い木、幸福をもたらす木とされています。これは、一説には鳳凰の住処とされることから来る富貴繁栄や神仏加護。また、皇室をはじめ後醍醐天皇が足利尊氏に桐紋を贈り、豊臣秀吉が太閤桐として桐紋を用い、今でも日本政府、皇室でもキリのデザインが使われることから、立身出世に結び付くとされています。さらに、昭和57年に登場した五百円白銅貨幣の表のデザインに使われたことから金運上昇のご利益があるなどともいわれています。

ほかにキリは木肌が空気を吸い込み音を良くする性質を持っていることから、琵琶や琴などの楽器の材料として知られることから技芸上達。また、防湿・防虫という性質のほかに、軽くて耐火性があることから「桐衣裳箱(ながもち)」などで使われたことから家内安全。さらに、成長がとてもはやいので、女の子が産まれるとキリを庭先に植え、嫁に入りのときにはそのキリを切って桐の箪笥(たんす)を作ったことから良縁祈願への祈りが込められた、とされています。このように多くの文様が願いや祈りを込めて使われたのではないでしょうか。

 

恐るべしキリのパワー!

キリは昔から防湿等の効果があり大切なものはキリの箱に入れるとよいとされていますが、その真偽に関して、先日筆者の知り合いより「50年前に撮影した35mのフイルムが発見された! 上映会をするぞ」と話があり観賞しに行きましたが、そのフィルムが保存されていたのは桐箱の中だったそうで、カビなどはまったくなく、まさに撮影直後のままといった感じでした。また、筆者の知り合いの住居兼店舗がほぼ全焼したときも桐箪笥の中の書類や宝石は無事だったことから、キリには物を守る力があるのかもしれませんね。

大切なものは桐箪笥へは昔からの知恵

大切なものは桐箪笥へは昔からの知恵

 

(日本図案家協会・園芸文化協会会員 藤依里子)


キリの花