夏から秋、純白の大輪
— シンテッポウユリ、タカサゴユリとテッポウユリが生んだ交雑種 —
道端や法面、空き地でふと見上げると、長さ15〜20cmの純白の筒形の花が横向きに咲いている——それがシンテッポウユリです。ユリ科ユリ属の多年草で、タカサゴユリとテッポウユリの交配によって生まれた交雑種。7月から11月という長い花期をもち、種から育つ旺盛な繁殖力で、夏から秋にかけて各地の野外で目立つ存在です。
いずれもエバーグリーン植物図鑑の投稿写真より
タカサゴユリ×テッポウユリ、二親の「いいとこどり」
シンテッポウユリは、タカサゴユリとテッポウユリの交配により生じた交雑種で、両者の中間的な形質をもちます。図鑑によれば、テッポウユリの純白の花色と、タカサゴユリの播種後8〜10ヶ月で開花する性質をあわせ持っているとのこと。種をまけば比較的早いサイクルで花が見られるというのは、野外での旺盛な自生・拡散にも深く関係しています。
ちなみに二親は、出自の異なるユリどうしです。エバーグリーン植物図鑑によれば、テッポウユリは日本(奄美・沖縄諸島)に自生する在来種で、花期は4〜6月。いっぽうタカサゴユリは台湾を原産地とし、花期は7〜11月です。異なる背景をもつ二種がかけ合わさって生まれたのがシンテッポウユリで、花期はタカサゴユリ寄りの夏〜秋、花色はテッポウユリ譲りの純白、という組み合わせになっています。
花被片の外側はふつう白色で赤紫色を帯びません。花粉はふつう黄色です。草丈は0.3〜1.5mと幅があり、日当たりのよい法面、道端、空き地などに自生します。地下には鱗茎をもち、葉は幅0.3〜0.7cmほどの線形〜狭披針形で茎に密につきます。
二親の来歴——台湾から来たタカサゴユリ、イースターリリーのテッポウユリ
交雑のもとになった二親には、それぞれ興味深い来歴があります。まずタカサゴユリ。国立環境研究所の「侵入生物データベース」によれば、学名は Lilium formosanum(英名 Formosa lily)で、自然分布は台湾。観賞用として1923〜1924年ごろに日本へ導入され、その後、高速道路の法面などでよく見かけるようになりました。種子を大量に風で散布して広がり、現在は宮城・福島から関東以南の本州、四国、九州、琉球列島にまで移入分布を広げています。同データベースは、このタカサゴユリがテッポウユリと交雑してシンテッポウユリが形成された(要DNA鑑定)とも記しています。
自然分布:台湾。侵入経路:観賞用として導入。侵入年代:1923〜1924年。……テッポウユリと交雑してシンテッポウユリが形成された(要DNA鑑定)。 — 国立環境研究所「侵入生物データベース」タカサゴユリ(nies.go.jp)
いっぽうのテッポウユリは、欧米で「イースターリリー(Easter lily)」として親しまれる花です。米ウィスコンシン大学の園芸情報(Wisconsin Horticulture)によれば、本来は日本の琉球(南西)諸島原産で、屋外では夏に咲きます。その花を、温度を管理して本来の花期とは違うタイミングに咲かせ、復活祭(イースター)の時期に合わせて出荷しているのだそうです。現在、鉢物のイースターリリーのほとんどは、米カリフォルニア〜オレゴン州境の海沿いのごく限られた生産者によって作られているといいます。
(イースターリリーは)日本南部の三つの小さな島(琉球諸島)に自生する。宗教的な祝日に合わせ、本来の花期とは異なる時期に開花させられている。 — 米ウィスコンシン大学 園芸情報(Wisconsin Horticulture)「Easter Lily, Lilium longiflorum」(hort.extension.wisc.edu)
なお同じ資料では、テッポウユリを含めユリ類の多くはネコに有毒で、口にすると腎不全を起こすため注意が必要だとも述べられています。ネコを飼っている家庭で切り花や鉢を扱うときは気をつけたいポイントです。
純白で見分けるが……実は難しい
シンテッポウユリとよく混同されるのがタカサゴユリです。エバーグリーンQ&Aでも、この二種の見分けについて多くの相談が寄せられています。専門家の方はこのように整理しています。
本来のタカサゴユリは、花弁の外側に紫色の筋があるとされています。また、葯の色は通常赤茶色をしています。それとテッポウユリが交雑したものがシンテッポウユリという雑種です。しかし、自然界の中には、本物のタカサゴユリでも、突然変異で真っ白になったものもあると思います。また、雑種同士が交雑し、形質が分離してくるものもあり得ます。……正直なところ、外見だけで、タカサゴユリとシンテッポウユリを識別するのはほぼ無理だと思います。葯の色にしても、わずかな遺伝子の突然変異で容易に変化しえます。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年8月、質問#16925)
花の外側に紫褐色の筋があればタカサゴユリ、なければシンテッポウユリです。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年8月、質問#16803)
教科書的には「花被片の外側に紫褐色の筋があるかどうか」が判断の手がかりになりますが、交雑を繰り返すことで中間的な個体が増え、実際の識別は容易ではありません。図鑑の備考欄にも「交雑を繰り返し、タカサゴユリとの判別が難しくなっています」と明記されています。
種で「神出鬼没」——旺盛な繁殖力
シンテッポウユリのもうひとつの特徴が、種による旺盛な繁殖力です。Q&Aの専門家の方はこんな表現で伝えています。
種で繁殖するタイプのユリで、神出鬼没です。高速の法面などにも大群生しています。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年8月、質問#16702)
「神出鬼没」という言葉が言い得て妙です。庭に植えた記憶がないのに毎年どこかに咲いている、ということが起きるのも、種による自然散布があるからこそ。播種後8〜10ヶ月で開花できるという性質が、あちこちへの定着を後押ししています。
帯化(たいか)という奇形——茎が扁平になり多花に
シンテッポウユリに限らずユリ類では、茎が扁平に広がって花が異常に多くつく「帯化(fasciation)」という現象が比較的よく見られます。Q&Aでも実例が報告されました。
周囲のユリ(タカサゴユリか、花が真っ白なのでシンテッポウユリかもしれません)と同じユリです。帯化という奇形で茎が扁平に広がるため花が多数つきます。ユリでは比較的よく見られる現象です。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2022年8月、質問#23277)
帯化した個体は見た目のインパクトが大きく、「これは何?」と驚いてQ&Aに投稿されるケースも少なくないようです。植物の側に害があるわけではなく、病気や虫によるものではないことがほとんどですが、原因はさまざまで複数の要因が関与するとされています。
実生の見分け——発芽直後は単子葉植物の芽
シンテッポウユリは種まきでも育てられますが、発芽直後の幼植物はタカサゴユリと見分けがつきません。Q&Aへの投稿でも「これは何の芽?」という問い合わせが毎年届きます。
この状態だけでは確定は難しいですが、双葉や子葉が見当たらないことから、単子葉植物の発芽したものです。おそらくですが、タカサゴユリもしくはシンテッポウユリの実生の状態と思われます。まだ残っているようならもう少し成長させて、葉が展開してくるまで待って再投稿ください。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年9月、質問#21275)
ユリは単子葉植物のため、発芽直後は双葉が出ません。葉が展開してきてからでないと、同属他種との判別は難しいということです。
同属のユリたちと比べる
エバーグリーン植物図鑑に登録されている国内で見られる主なユリ属の植物と、シンテッポウユリを並べてみます。まず二親であるテッポウユリ・タカサゴユリを並べ、続いて同属の仲間を挙げました。こうして見ると、花期の長さと花色の違いが際立ちます。
| 和名 | 花色 | 花咲く季節 | 草丈 |
|---|---|---|---|
| シンテッポウユリ | 白 | 7〜11月 | 30〜150cm |
| テッポウユリ(親種) | 白 | 4〜6月 | 50〜100cm |
| タカサゴユリ(親種) | 白 | 7〜11月 | 30〜200cm |
| ササユリ | 桃・白 | 6〜7月 | 50〜100cm |
| カノコユリ | 桃 | 7〜9月 | 100〜150cm |
| オニユリ | 橙 | 7〜8月 | 100〜200cm |
| コオニユリ | 橙 | 7〜9月 | 70〜150cm |
| クルマユリ | 赤・橙 | 7〜8月 | 30〜100cm |
| オウゴンオニユリ | 黄 | 7〜8月 | 100cm |
純白の花をもつユリは数少なく、その点でシンテッポウユリは独自の存在感を放っています。また、7月から11月という花期の長さも際立っています。秋になっても白い花が各所で咲いているのを見かけたら、まずシンテッポウユリを疑ってみてください。
まとめ:夏〜秋に「真っ白なユリ」を見かけたら
日当たりのよい道端や空き地に、長い筒状の純白の花が横向きに咲いていたら——それはほぼ間違いなくシンテッポウユリかタカサゴユリです。外側に紫褐色の筋がなく、花粉が黄色であれば、シンテッポウユリの可能性が高くなります。ただし交雑が進んでいるため、外見だけでの断定は専門家でも難しいというのが現実です。
草丈0.3〜1.5mと変異が大きく、種で旺盛に広がるこの植物。栽培目的というより、散歩や通勤の道中でふと目に飛び込んでくる「野の白いユリ」として、多くの人に馴染みのある存在です。7月から咲き始め、秋口まで白い花を次々と咲かせる姿を、ぜひ注意して探してみてください。
→ 図鑑で「シンテッポウユリ」の詳細を見る
参考・関連リンク(エバーグリーン内)
- エバーグリーン植物図鑑:シンテッポウユリ
- エバーグリーン植物図鑑:テッポウユリ(親種)
- エバーグリーン植物図鑑:タカサゴユリ(親種)
- Q&A #16925:タカサゴユリとシンテッポウユリの識別について(2020年8月)
- Q&A #16803:花の外側の筋による見分け方(2020年8月)
- Q&A #16702:種で繁殖する性質について(2020年8月)
- Q&A #23277:帯化(fasciation)の事例(2022年8月)
- Q&A #21275:実生発芽直後の識別について(2021年9月)
- エバーグリーン植物図鑑:ササユリ
- エバーグリーン植物図鑑:カノコユリ
- エバーグリーン植物図鑑:オニユリ
- エバーグリーン植物図鑑:コオニユリ
- エバーグリーン植物図鑑:クルマユリ
- エバーグリーン植物図鑑:オウゴンオニユリ
参考(外部・一次情報)
- 国立環境研究所 侵入生物データベース:タカサゴユリ(Lilium formosanum)(台湾原産・観賞用として1923〜1924年導入・野生化、テッポウユリと交雑してシンテッポウユリが形成)
- 米ウィスコンシン大学 Wisconsin Horticulture:Easter Lily, Lilium longiflorum(テッポウユリ=イースターリリー、琉球諸島原産、開花期を調整して復活祭に出荷、ユリ類はネコに有毒)