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朝に咲き夕に散る、それでも次々と
— ムクゲ、中国生まれ・学名はシリア・韓国の慣習国花 —

真夏の庭先で、朝に開いて夕方にはしぼむ径10cmほどの花を、7月から9月まで途切れることなく咲かせ続けるムクゲ(木槿、Hibiscus syriacus)。原産は中国、学名は誤って「シリアの」、別名は「ハチス」、韓国では「無窮花(ムグンファ)」と呼ばれて事実上の国花——一本の樹木がこれほど多くの土地と文化に名前を残している例は、植物の世界でもそう多くありません。今回は、図鑑データの背景にある名前の由来・学名命名の誤解・東アジアでの愛され方を辿ります。

ムクゲの花
ムクゲ / 写真: エバーグリーン植物図鑑

朝に開き、夕にしぼむ。それでも次々と

ムクゲの花の最大の特徴は、一日花であることです。エバーグリーン植物図鑑の「ムクゲ」基本情報には次のように記されています。

花は葉腋に単生し、径10cmほどの5弁花です。花色は紅紫色、白色、菫色などさまざまで、中心部が濃色の底紅となるものが多いです。花は朝開いて、その日の夕方にしぼむ一日花ですが、次々に咲きます。 — エバーグリーン植物図鑑「ムクゲ」基本情報より

一輪一輪の命は短い。けれど次々に蕾が控えていて、夏の3か月のあいだ、樹は花を絶やさない。この「短いのに尽きない」「儚いのに豊か」という二面性が、ムクゲをこれだけ多様な文化に愛されてきた根源です。

古名「ハチス」「キハチス」

古い時代の日本では、ムクゲは「ハチス」「キハチス」と呼ばれていました。エバーグリーン植物図鑑にも別名として「ハチス」が登録されています。平安中期に源順(みなもとのしたごう)が編纂した百科辞典『和名類聚抄』(931-938年頃)の巻二十・草木部・蓮類「蕣(しゅん)」項には、ムクゲの和名として次のように記されています(国立国語研究所「日本語史研究用テキストデータ集」二十巻本和名類聚抄古活字版より)。

蕣 文字集略云蕣[音舜和名木波知春]地蓮花朝生夕落者也 — 『和名類聚抄』巻二十・草木部・蓮類第244・18丁裏1行目「蕣」

「蕣(しゅん)」はムクゲの古い漢字表記で、「文字集略」によれば和名「木波知春(きはちす)」、すなわち「地に咲く蓮の花、朝に生まれ夕方に落ちる者なり」——1000年以上前の日本の辞書が、ムクゲの一日花としての特徴を端的に書き残しています。蓮(ハス)の古名「はちす」と同じ語形なのは、ムクゲの花の形が蓮の花を思わせるところから「木の蓮(きのはちす)」と呼ばれたためです。

学名は誤って「シリアの」——実は東アジア原産

ムクゲの学名 Hibiscus syriacus の種小名「syriacus」は、ラテン語で「シリアの」という意味です。植物学の世界で学名は原産地を表す情報として使われることが多い——ところが、Missouri Botanical Garden(ミズーリ植物園)Plant Finder の「Hibiscus syriacus」項には、次のように記されています。

Genus name is the old Greek and Latin name for mallow.
Specific epithet suggests the plant comes from Syria which appears to be false because it is native to eastern Asia. — Missouri Botanical Garden Plant Finder「Hibiscus syriacus」より

属名 Hibiscus はゼニアオイ(マロウ)を指すギリシア語・ラテン語の古い名前。種小名 syriacus は「シリアの」を意味するが、ムクゲは東アジア原産(同ページの Native Range 欄では「China to India」と明記)なので、シリア原産という示唆は誤りらしい——と Plant Finder には述べられています。

英語ではムクゲを Rose of Sharon(シャロンのバラ) とも呼びます。これは旧約聖書『雅歌』に登場するパレスチナ・サロン平原のバラに由来する伝統的名称で、種小名「syriacus」とは別系統ながら、こちらにも中東との結びつきが残っている点が興味深いところです。

白楽天「槿花一日の栄」と夏の茶花

中国・唐の詩人、白居易(白楽天)の『白氏文集』巻十五「放言」(中國哲學書電子化計劃で原典を閲覧可能)には、ムクゲを詠み込んだ有名な一節があります。

松樹千年終是朽 槿花一日自成栄 — 白居易『白氏文集』巻十五「放言」

「松は千年生きても結局は朽ちる。槿の花はたった一日でも自らその生を全うする」——一日でも「咲く」ことに意味があるという、儚さを肯定する詩。ここから日本語の「槿花一日の栄(きんかいちじつのえい)」という成句が生まれ、人の世の栄華の儚さを示す言葉として親しまれてきました。

日本の茶道では、ムクゲは夏(風炉の時期)を代表する茶花のひとつとして親しまれています(表千家不審菴「茶室の花」参照)。命の短さがかえって季節感を直接茶室に運ぶ、という茶事の本旨に重なる花として、長く愛されてきました。

韓国の国花「無窮花(ムグンファ)」——1100年以上前から、しかし慣習として

韓国ではムクゲを「無窮花(ムグンファ/무궁화)」と呼びます。「無窮」とは「尽きることがない」「終わりがない」の意。花の一輪は一日でしぼむのに、樹全体としては夏のあいだ咲き続ける——この「尽きることのなさ」を国の象徴に重ねたのが、ムグンファという呼び名の由来です(韓国行政安全部「国家象徴」公式説明)。

韓国とムクゲの関わりは、想像以上に古くまで遡ります。韓国国家記録院「国花・無窮花の来歴」によれば、897年、新羅の孝恭王が唐に送った国書で、新羅を「槿花郷(ムグンファヒャン)」——「ムクゲの花の郷」と表現したことが、中国の正史に記録されています。1100年以上前から、ムクゲは朝鮮半島を象徴する花として認識されていたわけです。

現代国家としての象徴は、20世紀初頭の独立運動の中で固まりました。当時各地で歌われた愛国歌の歌詞に「無窮花三千里 華麗江山(ムグンファ サムチョルリ ファリョガンサン)」——「無窮花の咲く三千里、麗しき山河」と組み込まれ、独立への思いとともにムグンファが韓国民族のシンボルになっていきました。1948年の大韓民国憲法制定後、ムクゲは事実上の国花として大統領章・国会徽章・パスポートなどに広く用いられるようになります。

興味深いのは、韓国ではムクゲが「法定国花」ではなく、80年以上にわたる慣習として国花の地位を保っているという点です。日本のサクラと同じく、国民の合意によって象徴になった花、ということです(韓国国家記録院アーカイブズ)。なお、2010年代以降は山林資源法に基づき、林業庁が5年ごとにムグンファ振興計画を策定する義務が定められ、行政レベルでの保護・普及も制度化されています。

「ムグンファの花が咲きました」——だるまさんがころんだの韓国版

韓国の子どもの遊びに「무궁화 꽃이 피었습니다(ムグンファ ッコチ ピオッスムニダ)」——「ムグンファの花が咲きました」というかけ声で遊ぶものがあります。鬼が振り向く前に動きを止める、止まりきれずに動いたら鬼に捕まる——日本の「だるまさんがころんだ」とほぼ同じルールの遊びです。世界各地に類似のゲームがある中で(英語では Statues、ドイツでは Ochs am Berg など)、韓国版のかけ声に国花が組み込まれているのは興味深いところ。2021年の韓国ドラマ『イカゲーム』で世界的に有名になったあの遊びのかけ声は、ムクゲの花のことを指していたわけです。

樹形と葉の特徴

図鑑によれば、ムクゲは高さ3〜4mになる落葉低木です。枝はよく分かれますが、上方へ向かって伸びる直立した樹形になります。枝は灰白色で、若いうちは星状毛(細かく枝分かれした毛)に覆われています。

葉は互い違いにつく単葉で、長さ4〜10cm・幅2.5〜5cmほどの卵形。ふつう3裂して3〜5本の脈が目立ち、縁には粗い鋸歯があります。葉の両面にも星状毛がはえています。果実は長さ1.5〜2cm・幅1.3cmほどの卵円形の蒴果で、黄褐色の星状毛が密生します。

同属のフヨウ・ハマボウ・タイタンビカスとの違い

ムクゲと同じフヨウ属(Hibiscus)の植物は、エバーグリーン図鑑にも複数登録されています。Q&Aでは「フヨウと似ている」という問い合わせも多く、専門家がこう答えています。

八重咲のムクゲです〜。フヨウは葉がもっと大きくて、五角形状となります。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年7月、質問#20885

ムクゲの葉は卵形で3裂するのに対し、フヨウの葉はより大きく五角形状になる点が見分けのポイントです。エバーグリーン図鑑に登録されている同属他種の草丈・花色・用途を並べると、以下のようになります。

ムクゲは同属のなかで最も樹高が高くなるグループに属し、用途適性の幅も広いのが特徴です。街路樹への適性が登録されているのも、フヨウ属のなかではムクゲならではの強みといえます。

八重咲き品種「紫玉(しぎょく)」

ムクゲは江戸時代から日本で栽培され、多くの園芸品種が作られてきました。エバーグリーンのQ&Aには、八重咲き品種に関する興味深い専門家コメントが残っています。

八重咲のムクゲですね。八重咲は涼しくなった方が蒸れることなくきれいに咲く傾向があるように思います。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2023年10月、質問#24470
ムクゲの園芸品種、紫玉(しぎょく)です〜 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年8月、質問#16944

エバーグリーンQ&Aには「紫玉(しぎょく)」という八重咲き品種名が複数の専門家回答に登場します。図鑑の基本情報にも「花色は紅紫色、白色、菫色などさまざまで、中心部が濃色の底紅となるものが多い」と記されており、花色・花形の組み合わせで非常に多彩な園芸品種群が江戸時代以来作られてきました。

栽培のポイント

図鑑によれば、ムクゲは日当たりがよく水はけのよい場所を好みます。栽培は容易ですが、虫害が多いので注意が必要とのこと。増殖は実生(種まき)と挿し木によります。用途適性として登録されているのは、盆栽・鉢植・生垣・花壇・公園庭園・街路樹・コンテナ・ベランダの8項目。小さなコンテナ栽培からシンボルツリーや生垣まで、幅広い使い方が可能です。中国では樹皮・種子・花を薬用とすると、図鑑利用欄に記されています。

一日の花に、千年の物語

朝に咲いて夕方にはしぼむ、一輪あたりの命がたった一日のムクゲ。けれど振り返ると、そこには千年を超える物語が積み重なっています。新羅で「ムクゲの郷」と讃えられ、白楽天の詩で「一日の栄」を肯定され、学名では誤って「シリアの」と種小名が付けられ、夏を代表する茶花となり、韓国の独立運動の歌に組み込まれて事実上の国花になり、現代では『イカゲーム』のかけ声にも姿を借りて世界中に届いている——ムクゲほど多くの土地と時代の物語を一身に集めた庭木は、なかなかありません。

今年の夏、庭先や公園でムクゲを見かけたら、一輪の花の短い命の裏に、これだけ長い時間の物語が隠れていることを思い出してみてください。

→ 図鑑で「ムクゲ」の詳細を見る
https://love-evergreen.com/zukan/plant/10784.html

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