気象台が「紅葉した」と記録するのは、緑がほぼ消えた日
— 紅葉前線の観測木、イロハモミジの見方 —
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秋のニュースで伝えられる「紅葉前線」。気象台がかえでの紅葉を観測するとき、主に目印にしている木は「いろはかえで」——図鑑で別名をイロハカエデともいうイロハモミジ(学名 Acer palmatum)だ。そして気象台が「紅葉した」と記録するのは、色づき始めた日ではない。木全体を眺めて、緑色がほとんど見えなくなった最初の日である。葉の中の赤い色素は、いつ最も多くなるのか。そもそも「もみじ」とは、何を指す言葉だったのか。名所の「もみじ」は、みなイロハモミジなのか。真っ赤にならない木があるのはなぜか。11月に紅葉を見に出かける前に、イロハモミジの見方を知っておきたい。
「紅葉日」は、緑がほぼ消えた日
気象庁は、決まった木(標本木)を観測して、季節の進み具合を記録している。気象庁の解説資料「かえでの紅葉日」によると、かえでの観測では主としていろはかえでを標本木とし、いろはかえでが生育しない地域では、やまもみじ、おおもみじ、いたやかえでを観測する。図鑑の「名前」欄には、イロハモミジの別名として「イロハカエデ(以呂波楓)」が挙がっている。気象庁の「いろはかえで」は、この木のことだ。
紅葉日の決め方は、思っているより厳しい。たとえば奈良地方気象台「生物季節観測」のページは、紅(黄)葉日を次のように説明している。
対象とする植物を全体として眺めたときに、その葉の色が大部分紅(黄)色系統の色に変わり、緑色系統の色がほとんど認められなくなった最初の日 奈良地方気象台「生物季節観測」より
つまり、色づき始めた日ではなく、緑がほぼ見えなくなった日なのだ。冒頭の写真の木は、下のほうにまだ緑の葉が多い。気象台の物差しに当てはめれば、まだ「紅葉した」とは言えない段階ということになる。
この紅葉日をつないだのが、ニュースでおなじみの紅葉前線だ。気象庁の「かえでの紅葉日」によれば、1991〜2020年の平年値で、かえでの紅葉は10月中旬に北海道太平洋側東部で始まり、11月30日には関東・北陸・東海・中国・四国の各地方と九州北部まで南下し、12月上旬から中旬にかけて近畿地方などに達する。ただし前線は大まかな目安で、地点ごとの平年日は前後する。たとえば奈良のいろはかえでの紅葉日は、上の奈良地方気象台のページの表で平年11月21日(最も早い記録は10月9日、最も遅い記録は12月7日)だ。
赤い色素は、3週間で7倍に
色づいていく葉の中では、何が起きているのか。国立科学博物館の研究報告に、筑波実験植物園で育つ1本のイロハモミジの葉を、2006年10月26日から11月29日までに7回採り、葉から取り出した色素の量を測った論文がある(国立科学博物館研究報告B類 34巻1号「Quantitative Variation of Anthocyanins and Other Flavonoids in Autumn Leaves of Acer palmatum」)。
それによると、秋の葉の主な赤い色素は、アントシアニンの一種のシアニジン3-グルコシド(クリサンテミン)だった。アントシアニンの量は色づきが進むにつれて増え、2006年11月22日に最も多くなった。その量は、11月2日の葉の7.29倍。その後は少しずつ減っていった。
同じ期間に、緑の色素であるクロロフィルと、カロテノイドという色素は減っていった。論文は、これらが11月22日、アントシアニンが増えるのにあわせて急に減ったと書いている。表の数値で見ると、11月22日のクロロフィルの量は11月2日の0.07倍、およそ1割以下だった。測った7日のうちでは、緑の色素が1割以下になったのも、赤い色素の量が最も多くなったのも、同じ11月22日の葉だった。
そして1週間後の11月29日には、赤い色素の量は11月2日の5.31倍、最も多かった日の約7割になっていた。これは1本の木・1年の記録で、ほかの木や別の年にも同じ日に最も多くなるとは限らない。それでも、赤い色素の量は盛りを過ぎると減っていく。この木では、1週間で約3割減っていた。だからこそ、出かける前には最新の見頃の情報で確かめておきたい。
見頃を確かめて、庭の中も探す
各地の植物園から届く最新の見頃の情報は、サイト内の「植物園のお知らせ」の見頃一覧に載せている。
ただ、見頃を少し外したら終わり、とも限らない。編集記事『「草木花 × 箱根」〜箱根随一の美しい紅葉を愛でる「箱根美術館」』(2016年)によれば、箱根美術館の苔庭には、イロハモミジ、オオサカズキなど5種類、約200本のモミジが植えられている。記事の中で庭園の担当者は、見頃は例年11月中旬ころとしたうえで、こう話している。
園内のモミジは一度に紅葉するわけではなく、少しずつ場所を変えて色づいていくので、12月初旬くらいまで、十分に楽しんでいただけると思いますよ。毎年、美術館本館近くの大きなモミジは、12月初旬に見頃を迎えます 編集記事『「草木花 × 箱根」〜箱根随一の美しい紅葉を愛でる「箱根美術館」』より
箱根美術館のように、何種類ものモミジが多く植えられた庭では、色づく場所が少しずつ移っていくことがある。訪ねた日が早すぎたり遅すぎたりしても、園内の別の場所に目を向ければ、見頃の木に出会えるかもしれない。
「もみじ」は、もとは色づくことだった
紅葉といえばモミジ、モミジといえばイロハモミジ。だが「もみじ」は、もとは木の名前ではなかった。編集記事「[紅葉]花めぐり11月号」(2018年)によれば、「もみじ」は、古くは植物が色付くことを意味する「もみつ」という動詞からきている言葉だ。同志社女子大学のコラム「『かえで』の古今東西」は、この動詞を「もみづ」と書き、古くは「つ」と濁らない清音だったと添えている。コラムによれば、もともとは葉が赤や黄色に変わることが「もみづ」で、かえで以外の萩・蔦・銀杏などにも使えた。その連用形「もみぢ」がしだいに名詞になり、「紅葉」と書かれるようになると、特に紅葉の美しいかえでを「もみじ」と呼ぶようになった。その代表がイロハモミジだった、とコラムは書く。今でも「もみじ」は、カエデの木、カエデが紅葉した様子、カエデ属の野生種のことをいう、と編集記事「[紅葉]花めぐり11月号」は書いている。
字も、はじめから「紅葉」だったわけではない。コラム「『かえで』の古今東西」によれば、『万葉集』では「黄葉」と書くのが一般的だ。大阪府柏原市文化財課のページ「柏原市域に関係する詩歌」も、万葉集のころは「もみじ(もみぢ)」といえば「黄葉」のことだったらしく、古今和歌集のころになると「紅葉」となるようだ、と書いている。
古典によく登場する紅葉の名所は、都の近くの山や川だった。国立科学博物館のページ「イロハカエデ」は、小倉山をはじめ、高雄・大堰川・嵐山(京都)、竜田(奈良)などを、都人たちが好んだイロハカエデの紅葉の景勝地として挙げ、いろいろな古典に「必ずといってよいほど登場する」と書く。同じページは、カエデは一般にはイロハカエデを指し、モミジと呼ばれるように「紅葉のチャンピオン」でもあるとしている。コラム「『かえで』の古今東西」によれば、『源氏物語』などでは、紅葉を見に出かけることを「紅葉見」と称していて、古くは貴族の遊びだった。室町時代には、謡曲「紅葉狩」もつくられた。
江戸時代に入ると、紅葉は庶民の楽しみになり、元禄時代には園芸品種づくりも始まった、と国立科学博物館のページ「イロハカエデ」は書く。名古屋大学で公開されている水谷泰弘「江戸の園芸書から」によれば、染井(現在の東京都豊島区駒込)の植木屋、伊藤伊兵衛三之丞と政武の父子はカエデの品種を集め、息子の政武は、葉を彩色で写して品種名と由来の和歌を付けた楓集を残した。品種名には「小倉山」「高尾」「立田」「嵐山」と、古典の名所の名が並ぶ。ここで挙がるのはカエデの品種で、どれがイロハモミジかは書かれていない。国立科学博物館のページ「イロハカエデ」は、イロハカエデの園芸品種として、今では200品種以上が知られているとしている。
名所の名は、イロハモミジの別名にも残っている。図鑑の「名前」欄には、タカオカエデ(高尾楓)、タカオモミジ(高尾紅葉)が挙がっている。国立科学博物館 筑波実験植物園の植物図鑑「イロハモミジ」は、この「タカオモミジ(カエデ)」の名を「紅葉の名所京都の高雄にちなんだもの」と説明している。
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その「もみじ」、イロハモミジとは限らない
前の章で見たとおり、「もみじ」はもともとイロハモミジだけを指す名前ではない。実際、名所で「もみじ」と呼ばれる木にも、いろいろなカエデがある。編集記事「[紅葉]花めぐり11月号」によれば、愛知県豊田市の香嵐渓には、イロハモミジ、ヤマモミジ、ウラゲエンコウカエデ、オオモミジ、コハウチワカエデなど、11種類のカエデがあるといわれている。
図鑑で、イロハモミジによく似た植物として挙がっているのは、オオモミジとヤマモミジだ。3つを図鑑の記述で並べると、次のようになる。
| イロハモミジ | オオモミジ | ヤマモミジ | |
|---|---|---|---|
| 生える所 | 平地から標高1,000m程度の山地 | 太平洋側の山地 | 日本海側の山地 |
| 葉の大きさ | 長さ3.5〜6cm、幅3〜7cm | 径7〜11cm | 径5〜10cm |
| 葉の裂け方 | 掌状に深く5〜7裂 | 掌状に浅く7裂(5〜9裂) | 掌状に7〜9裂 |
| 縁のぎざぎざ | 鋭く不揃いな重鋸歯 | 規則的な鋸歯 | 不揃いな欠刻状の鋸歯 |
| 葉柄の長さ | 葉と同じ長さか2/3程度 | 葉の1/2〜4/5程度 | 葉の1/2〜4/5程度 |
| 実の翼の開き方 | ほぼ水平 | 鈍角 | 鈍角 |
| 秋の色 | 紅葉する | 紅葉する | ふつう紅葉するが、黄色く色づくものもある |
| 葉の鑑賞期間 | 10月、11月 | 10月、11月、12月 | 10月、11月 |
手がかりになるのは、葉の大きさと縁のぎざぎざ(鋸歯)だ。図鑑は、イロハモミジについて「オオモミジやヤマモミジと比べ、葉がやや小さく、鋸葉が粗く不揃いなのが特徴です」と書いている。ただし、葉の切れ込みの深さだけで決めるのは危ない。2022年10月、北海道で、いつも見ている葉とは違う切れ込みの深い葉に気づき、「イロハモミジでよろしいでしょうか」と尋ねた投稿者に、専門家は「葉の表面のアップ確認したいところですが、鋸歯がそろって小ぶりな点から、イロハモミジではなく、オオモミジでしょう」と答え、「オオモミジは葉の切れ込み方にかなり変化があります」と添えている(質問#23487)。
生える場所もヒントになる。図鑑の分布欄によれば、イロハモミジが日本で自生するのは、本州では太平洋側が福島県以西、日本海側が福井県以西と、四国、九州。2017年10月、「鳥海山で撮りました」という色づいた木の写真がQ&Aに投稿されたとき(質問#1362)、専門家は「鋸歯(ぎざぎざ)の特徴と、葉全体の形、自生地からヤマモミジとおもわれます」と答え、「アップでみたらイロハモミジかもしれませんが」とも添えた。鳥海山は、イロハモミジの分布の「日本海側は福井県以西」から外れる。一方、図鑑のヤマモミジの分布は本州日本海側の秋田県から石川県で、鳥海山はその中にある。
先ほどの質問#23487の木は、北海道で撮られたものだ。北海道は、図鑑のイロハモミジの分布には入っておらず、オオモミジの分布(北海道中部以南)には入る。専門家が挙げた理由は鋸歯だが、分布もその見立てと合う。ただ、庭園や公園の木は植えられたものも多いので、場所だけでは決められない。
落ち葉を拾ったら、裂片も数えてみたい。図鑑の「備考」欄によれば、イロハモミジの名は、葉の裂片を「いろはにほへと……」と数えたことに由来するとされる(「いろはにほへと」は7文字)。ところが「基本情報」欄には、葉は「掌状に深く5~7裂し」とある。裂片は7つとは限らないのだ。2020年5月に大阪府で撮った木をイロハモミジと教えられた投稿者も、「イロハモミジの葉の裂片は、7個と思っていましたが、5個もあるのですね」と書いている(質問#14992)。裂片の先が長く尾のように伸びるのも、図鑑が挙げるイロハモミジの葉の特徴だ。
赤く見たいなら日なたの木、植えるなら半日陰との兼ね合い
紅葉といえば真っ赤なイロハモミジを思い浮かべるが、出かけてみると、橙や黄に見える木にも出会う。前の章の鳥海山の投稿(質問#1362)で、専門家はこうも書き添えている。
モミジ類は真っ赤に紅葉するものでも、日当たりなどの条件で黄色や橙色になる個体があります。ですのでイロハモミジであっても必ずしも真っ赤にはなりません。 エバーグリーンQ&A 質問#1362 専門家の回答より
図鑑の〔栽培〕欄にも、「日陰では紅葉の発色が悪くなります」とある。目当ての木が真っ赤でなくても、それだけで「今年は外れ」とは言えない。赤をしっかり見たいなら、日当たりのよい場所に立つ木を探してみるとよい。
庭に植えるときも、日当たりが鍵になる。同じ〔栽培〕欄によれば、イロハモミジは半日陰から日向の水はけのよい場所を好み、特に木が若いうちは半日陰の方がよい。ただし、日陰では紅葉の発色が悪くなるのは先に見たとおりだ。若木に向く半日陰と、色づきに効く日当たり。その兼ね合いで場所を選びたい。植え付けの時期は、図鑑の詳細情報の「植え付け(または播種)季節」欄によれば2月、3月、10月、11月で、10月の今もその時期にあたる。
図鑑の詳細情報の「繁殖方法」欄は「種、挿木」で、タネから育てる実生と挿し木で増やせる。家の庭の砕石の間から出た苗に、専門家が「イロハモミジの実生苗ですね」と答えた投稿もある(質問#20214)。
植えるにせよ、見に行くにせよ、11月にイロハモミジの前に立ったら、まず木全体にどれだけ緑が残っているかを見てみたい。日の当たる側と陰になる側で、色はどう違うか。足もとの葉を1枚拾って、大きさとぎざぎざ、裂片の数も確かめてみる。それだけで、いつもの紅葉狩りが少し違って見えるはずだ。
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→ 図鑑で「イロハモミジ」の詳細を見る
参考
- エバーグリーン植物図鑑:イロハモミジ
- エバーグリーン植物図鑑:オオモミジ
- エバーグリーン植物図鑑:ヤマモミジ
- エバーグリーン編集記事:「草木花 × 箱根」〜箱根随一の美しい紅葉を愛でる「箱根美術館」(2016年11月)
- エバーグリーン編集記事:[紅葉]花めぐり11月号(2018年11月)
- エバーグリーンQ&A:質問#1362(2017年10月)
- エバーグリーンQ&A:質問#14992(2020年5月)
- エバーグリーンQ&A:質問#18441(2020年12月)
- エバーグリーンQ&A:質問#20214(2021年5月)
- エバーグリーンQ&A:質問#23487(2022年10月)
- 気象庁:かえでの紅葉日(観測方法と平年値の解説、PDF)
- 奈良地方気象台:生物季節観測
- 国立科学博物館研究報告B類 34巻1号:Iwashina, T. & Murai, Y. (2008) Quantitative Variation of Anthocyanins and Other Flavonoids in Autumn Leaves of Acer palmatum(PDF)
- 同志社女子大学:吉海直人「『かえで』の古今東西」(教員によるコラム、2020年11月)
- 柏原市 文化財課:柏原市域に関係する詩歌
- 国立科学博物館:イロハカエデ
- 国立科学博物館 筑波実験植物園:植物図鑑 イロハモミジ
- 名古屋大学:水谷泰弘「江戸の園芸書から」(PDF)