EVERGREEN - エバーグリーン

← AI作成記事一覧

ヒヨドリバナが「渡り蝶」を呼ぶ理由
——秋の草原で起きる知られざる化学の物語——

草原や林縁の日当たりのよい場所に、白い小花をふわりと散らすように咲かせるヒヨドリバナ。花期は8〜10月。名前の由来は「ヒヨドリがよく鳴く頃に咲く」という意外なほど単純な観察からですが、この花が持つもう一つの顔は、1,000kmを超えて旅する蝶・アサギマダラをわざわざ引き寄せる「化学物質の蔵」であること。地味に見えて、生態学的には驚くほど重要な秋の多年草です。

白い糸状の小花が密集するヒヨドリバナの花序
ヒヨドリバナ Eupatorium makinoi / 白色の頭花が散房状に密集する(写真:エバーグリーン植物図鑑)

「ヒヨドリが鳴く頃」という名前の付け方

ヒヨドリバナの和名の由来は、図鑑の備考欄に「ヒヨドリがよく鳴く頃に開花するのでこの名がついたとされる」と記録されています。花期は8月から10月。秋の訪れとともに声が大きくなるヒヨドリの鳴き声と、白い花の開花が重なる——これを昔の人が名付けに使ったわけです。植物の命名にここまで動物の行動サイクルを絡めた例は珍しく、日本の自然観察眼の細やかさが伝わります。

エバーグリーンのQ&Aでも、野外で撮影されたヒヨドリバナの同定依頼は秋の時期に集中しています。専門家から「ヒヨドリバナです」とシンプルに断定された回答が積み重なっているのも、それだけ見かける機会の多い草であることの証左でしょう。

ヒヨドリバナであっています。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2023年9月、質問#24300
白色の散房花序と緑葉を持つヒヨドリバナの全体像
全体の草姿。高さ1〜1.5mになる多年草
大きな緑色の葉と白色の密集した花序を持つヒヨドリバナ
広卵形〜楕円形の大きな葉。縁に鋭い鋸歯がある

花のしくみ——すべてが「管状花」

ヒヨドリバナの花には、タンポポのような黄色い舌状花はありません。茎の上部につく頭花は管状花のみで構成され、雌しべが花の外に長く突き出るのが特徴です。この突き出た雌しべが集まった花序は、遠目には白い糸を束ねたように見えます。果実は痩果で、白色の冠毛を持ち、風に乗って運ばれます。

白い糸状の花弁と淡いピンクの蕾が集まった小さな花序のアップ
管状花のみからなる頭花。雌しべが外に突き出し、淡いピンクの蕾も見える

散房状に多数つく頭花の全体像は、平らな雪の結晶のように広がります。白〜淡紫色という花色の幅があり、光の加減や個体差によって印象が変わります。

白色の小花が集まった散房花序が満開に咲いている
満開の散房花序
白〜淡緑色の細い糸状の花が集まったフワフワとした花序
糸状の花弁が特徴的な質感
白い糸状の花弁と淡いピンクの蕾が密集して咲く花序
開花直前の蕾は淡いピンクを帯びる

1,000kmを旅する蝶を引き寄せる「化学物質の蔵」

ヒヨドリバナが生態学的に注目される理由は、その花の蜜に含まれる化学物質にあります。ピロリジジンアルカロイド(PA物質)と呼ばれるこの化合物は、アサギマダラのオスが雌を引き付ける性フェロモンの材料となるため、オスは競うようにヒヨドリバナに集まります。

環境省 九州環境局のアクティブ・レンジャー日記には、雲仙地域の田代原自然歩道でヒヨドリバナが点々と咲く野原にアサギマダラが数匹舞っていた様子が記録されています。アサギマダラは暑さに弱く、平地よりも気温が約5度低い雲仙温泉街では春から秋にかけて長い期間観察できるといいます。

ヒヨドリバナに集まるアサギマダラのほとんどはオス。成虫のオスがよく集まるヒヨドリバナやフジバカマの蜜にはピロリジジンアルカロイドという物質が含まれており、オスがメスを引き付ける性フェロモンを分泌するのにピロリジジンアルカロイドの摂取が必要なんだそうです。 瀬戸内海国立公園 五色台ビジターセンター「アサギマダラがやってきました」

アサギマダラは秋になると日本本土から南方へ移動し、その道中でヒヨドリバナやフジバカマに立ち寄りながら栄養補給をします。秋の草原でヒヨドリバナが咲き始める頃、それは同時に「渡り蝶の中継地」が開店する時期でもあるのです。

白い小花が集まった花序に黒いハエが止まり、細長い切れ込みのある葉が広がっている
訪花する昆虫の姿も。ヒヨドリバナには多様な昆虫が集まる

学名と分類——「makinoi」という名

エバーグリーン図鑑が採用するヒヨドリバナの学名は Eupatorium makinoi。種小名 makinoi は「牧野の」を意味し、日本植物学の父・牧野富太郎にちなむ名です。和名が「ヒヨドリが鳴く頃」という季節の観察から付いたのに対し、学名には人の名が刻まれている——同じ一つの草に、二つの名付けの流儀が同居しているのは面白いところです。

分布は日本(北海道〜九州)、朝鮮、中国。日当たりのよい草原や林縁を好む多年草で、茎は直立して高さ1〜1.5m、上部で枝分かれします。葉は対生または互生する単葉で、長さ10〜18cmの広卵形〜楕円形。葉の縁には鋭い鋸歯があり、裏面には腺点があります。

よく似た仲間との見分け方

ヒヨドリバナ属(Eupatorium 属)には紛らわしい近縁種がいくつかあります。エバーグリーン図鑑に登録された同属種との主な違いを整理しました。

エバーグリーンのQ&Aでも、サワヒヨドリとヒヨドリバナの混同が度々見られます。

左はサワヒヨドリ、右はヒヨドリバナでご確認ください。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2023年9月、質問#24253

痩果と冠毛——花の後も見どころあり

開花後に熟す果実(痩果)は白色の冠毛をまとい、風に乗って種子を散布します。花序全体が綿毛状になる様子も、秋の野草観察の楽しみのひとつです。

白色の小さな綿毛状の花が密集して咲いている花穂
綿毛状になった花穂。痩果には白色の冠毛がある
白色の小花が集まった散房状の花序が開花している
開花が進んだ状態の散房花序

ヒヨドリバナは観賞用途としての用途登録はありませんが、野草として里山や国立公園の遊歩道沿いで観察できる機会が多く、アサギマダラの飛来時期(おおむね9〜10月)と重なれば、蝶と花の共演という稀有な光景に出会えるかもしれません。

← AI作成記事一覧