仙人のヒゲをまとう夏のつる草
— センニンソウ、白い花と羽毛状の果実 —
林の縁や道端でフワリと白い花を広げるセンニンソウ。キンポウゲ科センニンソウ属の落葉つる性多年草で、8〜9月が花期です。北海道南部から琉球・小笠原まで広く分布し、朝鮮南部・台湾・中国中部にも自生します。秋になると果実に銀白色の長い毛が伸び、仙人のヒゲさながらの姿に変わります。ただし、この可憐な花には「触れるとかぶれる」というもうひとつの顔もあります。
名前の由来——「仙人のヒゲ」
センニンソウという名は、図鑑の備考欄に「果実につく毛を仙人のヒゲに例えた名とされます」と記されているとおり、花ではなく果実からついたものです。花が終わった後、雌しべの花柱が長さ2.5〜3cmと長く伸びて残り、銀白色の毛を密生させながら羽毛状になります。晩夏から秋にかけてのその姿は、たしかに長い白ヒゲを思わせます。
投稿者はこの果実を見て「花はよく見ますが実を見たのは初めてで嬉しいです」と書き添えていました。別の閲覧者も「センニンソウの実をみたら、まさしく仙人の雰囲気ですね」と反応しています。花よりも、この段階でこそ名前の意味がわかる植物なのです。
この由来については、日本薬学会の「生薬の花」でも同じ説明がなされています。
和名のセンニンソウ(仙人草)は、白い花をまとった姿が仙人をイメージすると思いきや、花の後に果実より伸びた銀白色の長毛が密生した様子を、仙人のひげにたとえたことに由来しているようです。 — 公益社団法人 日本薬学会「生薬の花 センニンソウ」(pharm.or.jp)
花そのものは径2〜3cmと比較的小ぶりですが、大きな円錐状の集散花序に多数の花がまとまって上向きに咲くため、遠目にもよく目立ちます。花弁はなく、白い倒披針形の萼片が4個、十文字に開きます。萼片の縁には白い毛が密にはえ、中央では多数の雄しべが黄色く輝きます。
葉と茎——からみながら伸びるしくみ
センニンソウはつる植物として、葉柄や小葉柄を使って周囲のものに巻きつきながら伸びます。図鑑によれば、葉柄や小葉柄が相手に触れると、接触した反対側が成長することでからみつくという仕組みです。
葉は対生する奇数羽状複葉で、小葉は3〜7枚(多くは5枚)。卵形でやや光沢があり、縁は全縁ですが、下部の小葉はしばしば切れ込みます。茎は緑色で無毛です。
触れるとかぶれる——もうひとつの顔
散歩道で見かけても、うかつに折り取らないほうがよい植物です。センニンソウはキンポウゲ科らしく有毒で、汁液が皮膚につくと炎症を起こします。
茎や葉の切断面から出る汁や濡れた花粉に触れると炎症を起す有毒植物です。 — 公益社団法人 日本薬学会「生薬の花 センニンソウ」(pharm.or.jp)
東邦大学薬学部付属薬用植物園も、有毒成分としてプロトアネモニン、サポニン、ヘデラゲニンを挙げ、「皮膚に触れると発疱をおこす」と注意を促しています。
キンポウゲ科のほとんどは有毒ですが、センニンソウもご他聞に漏れず有毒です。センニンソウの毒性を応用し、民間では魚毒にしたりします。別名はウマノハオトシ、ウシクワズといいますから、動物は本能的に有毒であることを知っているのでしょう。 — 東邦大学薬学部付属薬用植物園「センニンソウ」(lab.toho-u.ac.jp)
ウマノハオトシ(馬の歯落とし)、ウマノハコボレ(馬歯欠)、ウシクワズ(牛食わず)、ハグサ(歯草)——日本薬学会が挙げるこれらの別名は、いずれも「家畜が口にすると危ない」という意味です。名前そのものが警告板になっているわけです。
エバーグリーンQ&Aに寄せられた声
エバーグリーンのQ&Aには、センニンソウの同定を求める投稿が多く届きます。白い花と羽毛状の果実は特徴的ながら、似た植物と混同されることもあるようです。専門家の方々の回答をいくつか紹介します。
センニンソウです~ — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2023年9月、質問#24241)
センニンソウであっています~ 後ろの葉は違う植物の葉ですね。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年9月、質問#21598)
センニンソウであっています。他の植物に絡まるので、違う葉が出ているように感じられたのではないでしょうか? — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年9月、質問#21597)
他の植物に絡まって伸びる習性上、別の植物の葉が混じって見えることがある——という指摘は、観察するときの参考になります。
センニンソウと間違えやすい植物
同じセンニンソウ属の植物には、見た目の似たものがあります。Q&Aでは専門家がこんな見分け方を示しています。
鋸歯のある葉から、センニンソウではありません。花数が少ないのでボタンヅルではなく、コバノボタンヅルの可能性が高いと思います。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2023年8月、質問#24206)
ポイントは葉の縁です。センニンソウの小葉は縁が全縁(鋸歯がない)のが基本。鋸歯があれば別種の可能性が高くなります。同じスレッドでは、葉の分かれ方についての補足も寄せられました。
ボタンヅルの葉は1回3出複葉ですが、写真の葉は2回3出複葉に見えるのでコバノボタンヅルでしょう。センニンソウは小葉が3~7枚の羽状複葉です。 — エバーグリーンQ&A 回答(2023年8月、質問#24206)
実際、図鑑でコボタンヅルを見ると、葉は2回3出複葉で「縁に不ぞろいな鋸歯があります」、花径も1.5〜2cmとひとまわり小さい。花期は同じ8〜9月で白花なので、迷ったら葉を見るのが確実です。
ボタンヅルかセンニンソウの若い果実ですね。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年11月、質問#22069)
果実が羽毛状になる前の若い段階では、ボタンヅルとセンニンソウの区別がつきにくい場合もあるようです。花が咲いている時期に葉の縁をあわせて確認しておくのが確実です。
どこで見られる? 自生の環境
図鑑によれば、センニンソウは日当たりのよい林縁や草原、道端などに自生します。Q&Aでは専門家がこんなコメントを残しています。
センニンソウは小笠原のものはムニンセンニンソウとして区別しますが、それ以外は特に変種などは分けていなかったかと。日当たりの良いところならどこでもあります。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年9月、質問#17373)
この「小笠原のものは別扱い」という感覚は、国際的な分類データベースとも符合します。英国キュー王立植物園の Plants of the World Online(POWO)は Clematis terniflora DC. を正名(accepted)とし、その下に4つの変種を認めていますが、そのひとつが小笠原諸島の地名にちなむ var. boninensis です(ほかに var. garanbiensis、var. mandshurica、var. terniflora)。エバーグリーン図鑑がセンニンソウの学名を Clematis terniflora var. terniflora と記しているのも、この基本変種を指してのことです。
分布は北海道南部から琉球まで、広く日本列島をカバーします。散歩道や林の縁で白いまとまり花を見かけたら、葉の縁を確かめてみてください。
海を渡ったセンニンソウ
日本ではありふれた野草ですが、海の向こうでは事情が違います。POWO によれば、本種の自生域は中国からロシア極東・東アジア温帯域——具体的には中国各地、日本、南西諸島、小笠原諸島、台湾、朝鮮、内モンゴル、沿海地方など。一方で導入先として、アラバマ、フロリダ、ニューヨーク、テキサスなど北米東部を中心とした30以上の州・地域と、ニュージーランド南北両島が挙げられています。
英名は sweet autumn clematis / sweet autumn virginsbower。もともと観賞用として持ち込まれたものですが、米国では侵略的外来植物として扱われています。ジョージア大学と米国国立公園局(National Park Service)などが運営する Invasive Plant Atlas of the United States は、こう記しています。
Clematis terniflora prefers sun to partial shade and is found invading forest edges, rights of ways and urban green space especially near creeks. It is native to Japan and China and was introduced into the United States as an ornamental plant. (訳:センニンソウは日向から半日陰を好み、林縁、道路や送電線の敷地、とくに小川沿いの都市緑地に侵入する。日本と中国の原産で、観賞植物として米国に導入された。)
— Invasive Plant Atlas of the United States「sweet autumn virginsbower」(invasiveplantatlas.org)
同サイトによれば、グレート・スモーキー・マウンテンズ国立公園やロック・クリーク公園など複数の米国国立公園で侵入が報告され、アラバマ、フロリダ、テネシー、バージニアなど多くの州の侵略的外来種リストに掲載されています。
面白いのは、現地での見分け方です。北米には近縁の在来種 Clematis virginiana があり、外来のセンニンソウとよく似ています。Invasive Plant Atlas は「在来種の葉の縁は鋸歯があることが多い(margins of leaves of the native tend to be toothed)」と説明しています——日本でセンニンソウとボタンヅル類を分けるときと、まったく同じ葉の縁という手がかりが、地球の反対側でも使われているのです。
同属の仲間たち
センニンソウ属(クレマチス属)には、園芸でもおなじみの仲間が多くいます。
- クレマチス:5〜10月と長い花期を誇る園芸種。鉢植・壁面緑化・切花などに広く利用される。
- クサボタン:8〜9月に青〜紫の花を咲かせる。草丈50〜100cm。ロックガーデンや鉢植に向く。
- コボタンヅル:センニンソウに近縁の白花種で、8〜9月に咲く。関東〜中部地方に分布する日本固有種。
センニンソウ自身は自然の林縁や道端を彩る野生種ですが、同属のクレマチスが世界中で園芸化されていることを思えば、その花の魅力の大きさがあらためて感じられます。日本の道端で咲くこの花が、はるか北米では「増えすぎて困る美しい侵入者」になっている——そう思って眺めると、いつもの散歩道の風景も少し違って見えるかもしれません。
→ 図鑑で「センニンソウ」の詳細を見る
参考(エバーグリーン内)
- エバーグリーン植物図鑑「センニンソウ」
- エバーグリーン植物図鑑「コボタンヅル」
- エバーグリーン植物図鑑「クサボタン」
- エバーグリーン植物図鑑「クレマチス」
- Q&A #12088(2020年1月・果実の写真)
- Q&A #24241(2023年9月)
- Q&A #24206(2023年8月)
- Q&A #22069(2021年11月)
- Q&A #21598(2021年9月)
- Q&A #21597(2021年9月)
- Q&A #17373(2020年9月)
参考(外部)
- 公益社団法人 日本薬学会「生薬の花 センニンソウ Clematis terniflora DC.(キンポウゲ科)」 https://www.pharm.or.jp/flowers/post_21.html
- 学校法人 東邦大学 薬学部付属薬用植物園「センニンソウ」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/phar/yakusou/sennninnsou.html
- Plants of the World Online (Royal Botanic Gardens, Kew)「Clematis terniflora DC.」 https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:710123-1
- Invasive Plant Atlas of the United States (University of Georgia Center for Invasive Species and Ecosystem Health / National Park Service)「sweet autumn virginsbower: Clematis terniflora」 https://www.invasiveplantatlas.org/subject.cfm?sub=5354