つる植物の女王、その母は日本の野山に
—クレマチス、世界の温帯に広がる多品種植物—
5月から10月、フェンスや壁面をつたって咲くクレマチスの季節です。キンポウゲ科センニンソウ属。観賞用に栽培される木本または木質化する多年草で、多くはつる性。花形も花色も多彩で、世界中の園芸愛好家に親しまれている植物です。あまり知られていないのは、その大輪園芸品種の母にあたるのが、日本の野山にいまも自生する一種だということ——。
基本的な性質
図鑑の登録情報によれば、クレマチスは木本または木質化する多年草で、生活型は「つる性木本・つる性草本・多年草」と幅広く登録されています。分布は世界の温帯(多くは北半球)、オセアニア、熱帯アフリカの山岳地帯とされており、広い地域に自生していることがわかります。
葉は対生しますが、若い株では互生することもあります。ふつう1〜数回3出複葉または羽状複葉となりますが、単葉のものもあります。花は萼片が花弁状に発達しており、花形も花色も多彩です。
「みんなが知りたかった植物」ランキング常連
エバーグリーンが毎年発表してきた「みんなが知りたかった植物」ランキングでも、クレマチスは長く上位の常連でした。
| 年 | 順位 |
|---|---|
| 2019年 | 2位 |
| 2020年 | 3位 |
| 2021年 | 同率1位(ヒアシンソイデスと並ぶ) |
| 2022年 | ベスト6から外れたが、頻繁に質問された植物として掲載 |
2021年版の発表記事では、「映えある1位は、クレマチスとヒアシンソイデスでした!」とその年の同率1位を伝えています。同じ記事は人気の理由をこう書いています。
一言でクレマチスと呼びがちな花ですが、園芸品種が多く存在します。バリエーションに富んだ形や色があることで、道端で見かけた大きな花を見てなかなか「これもクレマチス!」と自信を持って同定しづらいところもあってか質問が多い植物となりました。 — エバーグリーンポスト「2021年みんなが知りたかった植物ベスト10発表!(3)」
「これもクレマチス!」と気付きにくい——この感覚こそが、クレマチスの面白さの本質かもしれません。
日本にも自生する「カザグルマ」
クレマチスは海外の華やかな園芸植物——というイメージがありますが、日本の野山にもじつは野生のクレマチスがあります。カザグルマ(風車)です。学名は Clematis patens。本州・四国・九州の里山や林縁に分布する落葉性つる植物で、白〜淡紫色の大輪を咲かせます。
カザグルマは、生息地である里山環境の減少にともない、環境省レッドリストで「準絶滅危惧(NT)」に指定されています。野生株は湿った林縁や小川の縁に限られ、出会うことは年々難しくなっています。
そして園芸の世界にとって、このカザグルマは特別な存在です。海外で「つる植物の女王」と称される大輪クレマチスの多くは、カザグルマと中国産の Clematis lanuginosa を主要な交配親として19世紀のヨーロッパで作出されました。学名 patens はそのままクレマチスの「パテンス系」という系統名にもなっており、エバーグリーンのQ&Aでも頻繁に登場します。
クレマチスであっています〜 品種数が多く、いろいろな色や形の花があります。パテンス系というグループの品種と思われます。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年5月、質問#19809)
大輪・四季咲き・鉢でも育てやすいといった、現代の主要な園芸クレマチスの特徴の多くは、日本のカザグルマから受け継がれているのです。
品種数の多さと見分けの難しさ
クレマチスはとりわけ品種数が多いことで知られます。パテンス系、ビチセラ系、フロリダ系、インテグリフォリア系、アトラゲネ系、シルホサ系、ヴィオルナ系——系統だけでも10以上に分かれ、その下にそれぞれ数百〜数千の品種があります。エバーグリーンのQ&Aでも、専門家から品種特定の難しさに言及する回答がたびたび寄せられています。
クレマチスのパテンス系品種ですが、品種数が何百とありますのでラベルがついていないと確定は難しいです。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年8月、質問#16683)
クレマチスも似たものが多く、ラベルがないものは特定困難ですが、クレマチス・ビチセラに似ていますね。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年7月、質問#20876)
購入時のラベルは大切に保管しておくとよいでしょう。専門家でも、ラベルのない株から品種を特定するのは難しいとのことです。
系統が違えば、楽しみ方も違う
クレマチスの系統は、花の咲く季節も剪定の仕方も性格もそれぞれ違います。Q&Aの専門家回答から、系統の多様さの一端が見えてきます。
冬咲きのクレマチスです〜 シルホサ系の園芸品種と思われます。10月ごろに一回咲いて、春までちょこちょこ咲くタイプです — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2020年11月、質問#18320)
シルホサ系は地中海原産で、秋から冬にかけて咲く常緑性のグループ。日本で「クレマチス=初夏」のイメージとは違い、冬の庭を彩る貴重な存在です。
クレマチスです〜 アトラゲネ系というグループの品種です。ブロートン ブライドとかホワイトレディが似ていますね。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2021年4月、質問#19355)
アトラゲネ系は早春から咲くベル形の小輪。ヨーロッパや北米北部、シベリアなど寒冷地に分布する原種を起源とし、寒さに強いのが特徴です。
クレマチスの立性(木立性)の園芸品種ですね〜 インテグリフォリア系のヘンダーソニーかムーンリバーあたりだと思います。 — エバーグリーンQ&A 専門家回答(2022年11月、質問#23544)
つる性のものだけでなく、立性(木立性)の園芸品種があるのもクレマチスの特徴。インテグリフォリア系は地際から咲き上がる宿根草タイプで、フェンスがなくても花壇で楽しめます。
花咲く季節と用途
図鑑の登録によれば、クレマチスの花咲く季節は5月・6月・7月・8月・9月・10月と長期にわたります。さらに冬咲きのシルホサ系まで含めれば、ほぼ一年中どこかでクレマチスが咲いている計算になります。
用途適性としては鉢植・花壇・切花・公園や庭園・壁面緑化・コンテナ・ベランダが登録されており、多様な場所や用途で活用されていることがわかります。特につる性の性質を活かした壁面緑化やフェンスへの誘引は、クレマチスならではの使い方といえるでしょう。
栽培のポイント
図鑑によれば、増殖はおもに挿し木によります。日当たりのよい場所を好み、乾燥を嫌います。系統によって剪定の仕方が大きく異なるため、購入時のラベルや系統名のメモは育成の助けになります。
同属の植物との比較
センニンソウ属(Clematis)にはエバーグリーン図鑑に50種以上が登録されていますが、ここでは基本情報が揃っている近縁種を並べてみます。
- カザグルマ:日本産のつる性多年草、本州〜九州の里山に自生。環境省レッドリスト 準絶滅危惧(NT)。大輪パテンス系の主要交配親。
- クサボタン:草丈500〜1000mm、花色は青・紫、花咲く季節は8〜9月。用途はロックガーデン・鉢植・花壇・公園や庭園・コンテナ。
- コボタンヅル:花色は白、花咲く季節は8〜9月。用途は公園や庭園・壁面緑化。
クレマチスは5月から10月という長い開花期と花色・花形の多彩さ、そして鉢植から壁面緑化まで広がる用途適性において、同属の中でも際立った特徴を持つ植物といえます。そしてその園芸品種の系譜のなかに、日本の野山に咲く一種(カザグルマ)がしっかり位置を占めていることも、覚えておきたいところです。
参考
- エバーグリーン植物図鑑「クレマチス」
- エバーグリーン植物図鑑「カザグルマ」
- エバーグリーン植物図鑑「クサボタン」
- エバーグリーン植物図鑑「コボタンヅル」
- エバーグリーンポスト「2021年みんなが知りたかった植物ベスト10発表!(3)」
- エバーグリーンポスト「みんなが知りたかった植物2022年版」
- エバーグリーンQ&A 質問#19809(パテンス系、2021年5月)
- エバーグリーンQ&A 質問#16683(パテンス系・品種数、2020年8月)
- エバーグリーンQ&A 質問#20876(ビチセラ、2021年7月)
- エバーグリーンQ&A 質問#18320(シルホサ系・冬咲き、2020年11月)
- エバーグリーンQ&A 質問#19355(アトラゲネ系、2021年4月)
- エバーグリーンQ&A 質問#23544(インテグリフォリア系・立性、2022年11月)
- 環境省 レッドリスト・レッドデータブック(カザグルマ:準絶滅危惧 NT)
- 環境省 生物多様性センター レッドデータブック